個人M&Aで最低限見るべき財務数値 — 決算書のこの数字だけは確認する
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スモールM&Aの財務DD
個人・スモールM&Aの財務デューデリジェンス実務 — 見るべき指標・数字の裏取り・費用の現実解・価格交渉への変換
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会社を買おうとしている個人が、時間も会計の専門知識も限られた中で、決算書のどの数字だけは必ず確認すべきか。
答えを先に示す。見るべき数値は6つ。拾う科目はBS/PLあわせて12個程度で足りる。全部の科目を読み解く必要はない。この記事では、6つの数値それぞれを決算書のどの科目から拾い、どう計算するかを科目名のレベルまで落として説明する。
| 指標 | 何が分かるか | 主に使う科目 |
|---|---|---|
| 正常化EBITDA | 本当の稼ぐ力 | 営業利益、減価償却費、役員報酬 |
| 純有利子負債 | 実質的な借金の重さ | 現金及び預金、短期・長期借入金 |
| CCC | 資金繰りの実態 | 売掛金、棚卸資産、買掛金 |
| 流動比率 | 短期の支払能力 | 流動資産、流動負債 |
| 自己資本比率 | 財務の体力 | 純資産、総資産 |
| 営業利益率 | 本業の競争力 | 営業利益、売上高 |
筆者は事業売却(EXIT)を3回経験し、売り手としてDDを受ける側に立ってきた。その経験をもとにスモールM&A向けの財務DDツールを開発したとき、多数の財務指標からこの6つに絞り込んだ。基準は「買収価格と買収後の資金繰りに直結するか」だ。逆に言えば、この6つを落とすと価格を間違えるか、買った後に資金繰りで詰む。
用意する資料 — 決算書だけでは足りない
数字を拾う前に、手元に揃えるべき資料を確認しておく。
- 決算書3期分(貸借対照表・損益計算書)
- 勘定科目内訳明細書3期分 — 法人税申告書に添付される明細で、役員報酬・借入先・売掛先などの内訳はここにしか出てこない
- 法人税申告書3期分 — 決算書との突合用
- 借入金返済予定表
とくに勘定科目内訳明細書は個人買い手が見落としやすい。決算書のBS/PLは集計値しか載っていないので、「役員報酬がいくらか」「借入先はどこか」は内訳書で確認することになる。売り手への資料依頼リストに必ず含めてほしい。
1. 正常化EBITDA — 営業利益からスタートして3つの調整
拾う科目は、損益計算書の営業利益、販管費内訳(または製造原価報告書)の減価償却費、勘定科目内訳明細書の役員報酬。
計算はこの順で行う。
EBITDA = 営業利益 + 減価償却費
正常化EBITDA = EBITDA
± 役員報酬の調整(現オーナーの報酬を、後任に払う適正水準に置き直す)
+ 私的経費の足し戻し(事業に不要な交際費・車両費など)
- 一過性利益の除外(補助金、資産売却益など)中小企業の決算は節税を優先して組まれていることが多く、帳簿上の営業利益は実力より小さく見えているのが普通だ。役員報酬を厚めに取っていれば、その分だけ利益は圧縮されている。買い手が知りたいのは「自分が引き継いだ後にいくら残るか」なので、帳簿の利益ではなく正常化後の数字で価格を考える。
調整の中で最も金額が大きくなりやすいのが役員報酬だ。内訳書で現オーナーの報酬額を確認し、「自分ならこの経営をいくらで引き受けるか(または後任にいくら払うか)」との差額を調整に入れる。
2. 純有利子負債 — 借金から現預金を引く
拾う科目は、貸借対照表の現金及び預金、短期借入金、長期借入金。内訳書の「借入金及び支払利子の内訳書」で借入先ごとの残高を確認する。
純有利子負債 = (短期借入金 + 長期借入金) - 現金及び預金この数字が価格交渉で効くのは、「事業価値(EV)− 純有利子負債 = 株式価値」という関係で使うからだ。同じ事業価値でも、借金が重い会社の株式の値段は安くなる。
スモール案件では、借入先の中に役員借入金(オーナー個人が会社に貸しているお金)が混ざっていることが多い。これを債権放棄してもらうのか、買い手が引き継ぐのかで最終価格が大きく動くので、内訳書で必ず存在を確認する。
3. CCC — 黒字倒産の予兆を日数で測る
拾う科目は、貸借対照表の売掛金(受取手形含む)、棚卸資産、買掛金(支払手形含む)と、損益計算書の売上高、売上原価。
売上債権回転日数 = 売掛金 ÷ 売上高 × 365
棚卸資産回転日数 = 棚卸資産 ÷ 売上原価 × 365
仕入債務回転日数 = 買掛金 ÷ 売上原価 × 365
CCC = 売上債権回転日数 + 棚卸資産回転日数 - 仕入債務回転日数CCCは「仕入に払ったお金が売上として戻ってくるまでの日数」を表す。この日数が長い会社は、損益計算書が黒字でも手元資金が細りやすく、買収直後に運転資金の追加投入を迫られる。買収価格そのものだけでなく、「買った後にいくら用意しておくか」の見積りに直結する数字だ。
4. 流動比率 — 1年以内の支払いを賄えるか
拾う科目は貸借対照表の流動資産と流動負債の合計欄だけ。計算は流動資産÷流動負債。
100%を切っていれば、1年以内に現金化できる資産より1年以内の支払いのほうが大きい状態を意味する。ただし水準は業種でまるで違うので、単体で良し悪しを断定せず、後述のベンチマーク比較とセットで見る。
5. 自己資本比率 — 会社の体力を1つの割合で
貸借対照表の純資産合計÷総資産(資産合計)。
低いほど借入依存が強く、売上減少への耐性がない。純資産がマイナス(債務超過)の案件もスモールM&A市場には普通に流通している。債務超過だから即見送りではないが、株式の値段がほぼゼロになる理由と、再建の道筋をセットで考える必要がある。
6. 営業利益率 — 同業と比べて初めて意味を持つ
損益計算書の営業利益÷売上高。正常化調整を反映した営業利益で計算し直すのが前提だ。
この数字だけは、単体では判断材料にならない。営業利益率5%が優秀かどうかは業種次第で、卸売業なら健闘、ソフトウェア業なら苦戦の水準になる。経産省のローカルベンチマークや財務省の法人企業統計など、公開されている業種別統計の中央値と並べて見る。
拾った数字は裏取りしてから使う
6指標の計算より先に確認すべきことがある。渡された数字そのものが信用できるかだ。最低限、決算書と法人税申告書の数字が一致しているかの突合、預金残高と通帳・残高証明の照合はやっておく。数字の裏取りとベンチマーク比較の詳しい進め方はピラー記事(スモールM&Aの財務DD完全ガイド)にまとめている。
もう1点。判定基準は数字を見る前に決めておく。買いたい案件ほど、人は数字に甘くなる。「自己資本比率が業種中央値の半分を切っていたら要精査」のように、しきい値を先に紙に書いてから決算書を開くだけで、判断の質は変わる。
3期分で見る — 単年の数字は化粧できる
どの指標も、直近1期だけでなく3期分を並べて見る。単年の数字は役員報酬の増減や一過性の利益でいくらでも動くが、3期のトレンドを同時に化粧するのは難しい。直近期だけ急に良くなっている決算書は、売却に向けた「化粧」の可能性を疑って、売り手への質問リストに載せる。
まとめ
- 最低限見る数値は6つ: 正常化EBITDA・純有利子負債・CCC・流動比率・自己資本比率・営業利益率
- 決算書のBS/PLに加えて勘定科目内訳明細書を必ず入手する。役員報酬と役員借入金はそこにしか出てこない
- 帳簿の利益をそのまま使わない。正常化してから価格を考える
- 基準を先に決め、3期分で見て、ベンチマークと比較する
この6指標の計算・5段階リスク判定・業種ベンチマーク比較を自動化するために、筆者は DD Tool を作った。決算書の数字を入力するとその場で結果が出る。ブラウザだけで動き、財務データは外部に送信されない。無料版を試す →
よくある質問
- Q. 会計の知識がなくても財務DDの数字は拾えますか?
- 拾えます。6指標が使う科目はBS/PLと勘定科目内訳明細書のあわせて12個程度で、いずれも決算書に名前どおり載っている集計値です。難しいのは科目を探すことではなく、正常化調整(役員報酬の置き直しなど)の判断で、そこは同業水準との比較を頼りに進めます。
- Q. 決算書は何期分もらうべきですか?
- 最低3期分です。単年の数字は役員報酬の増減や一過性利益で大きく動きますが、3期のトレンドを同時に取り繕うのは困難です。直近期だけ急に良くなっている場合は、売却に向けた化粧の可能性を質問リストに載せます。
- Q. 役員報酬の金額はどこで確認できますか?
- 損益計算書の本体ではなく、法人税申告書に添付される勘定科目内訳明細書で確認します。役員借入金の有無も同じ書類で分かるため、資料依頼の際は決算書だけでなく内訳明細書を必ず含めてください。
- Q. 債務超過(自己資本がマイナス)の会社は買ってはいけませんか?
- 即見送りではありません。スモールM&A市場では債務超過案件も普通に流通しています。ただし株式の値段がほぼゼロになる理由と、借入の引き継ぎ条件、再建の道筋をセットで検討する必要があり、初めての買収には難度が高い部類です。
- Q. 6指標のうちどれが最も重要ですか?
- 価格を決めるのは正常化EBITDAと純有利子負債、買収後の生死を分けるのはCCCです。ただし6つは役割が違うので入れ替えは利きません。価格系2つ・資金繰り系1つ・安全性系2つ・競争力系1つのセットとして全部確認するのが前提です。