スモールM&Aの簡易DDチェックリスト — 買い手が最初に依頼する資料と確認項目
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スモールM&Aの財務DD
個人・スモールM&Aの財務デューデリジェンス実務 — 見るべき指標・数字の裏取り・費用の現実解・価格交渉への変換
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この記事で答える質問
スモールM&Aの買い手が、財務DDでまず「何を集めて、何を確認するか」。この1ページをそのままチェックリストとして使えるように書いた。
最初に全体像をまとめる。
- 資料依頼は最低8点。決算書3期分(勘定科目内訳明細書つき)・法人税申告書3期分・直近試算表・借入金返済予定表・売上の月次推移・主要取引先リスト・役員報酬の内訳・保険積立の解約返戻金
- 確認の順序は「裏取り → 指標計算 → ベンチマーク比較」。渡された数字をそのまま計算に流し込まないこと
- 資料の「出方」も観察対象。すぐ出る資料は管理されている領域、遅れる資料は管理が甘い領域だ
筆者は事業売却(EXIT)を3回経験し、売り手として買い手のDDに資料を出す側に立ってきた。その経験とスモールM&A向け財務DDツール(DD Tool)の設計知見をもとに、買い手向けの実務チェックリストに落とし込む。
資料依頼リスト — 8点セットと「見る目的」
売り手(または仲介)への最初の資料依頼で出すリスト。各資料に「何のために見るか」を添えた。目的が言えない資料依頼は売り手の負担になるだけなので、この対応関係ごと覚えてほしい。
| # | 資料 | 見る目的 |
|---|---|---|
| 1 | 決算書3期分(勘定科目内訳明細書つき) | 収益力・財務体力の推移。内訳明細で役員借入金・貸付金・仮払金などの危険科目を特定 |
| 2 | 法人税申告書3期分(別表つき) | 決算書との突合。銀行用と税務署用で数字が違う「二重帳簿」の検出 |
| 3 | 直近の試算表 | 決算日から現在までの業績変化。直近悪化の検出 |
| 4 | 借入金返済予定表 | 有利子負債の全量と返済スケジュール。純有利子負債の計算材料 |
| 5 | 売上の月次推移(可能なら24〜36ヶ月) | 季節性・トレンド・特定月への依存。決算期をまたぐ売上操作の兆候 |
| 6 | 主要取引先リスト(売上上位・仕入上位) | 顧客集中リスク。特定取引先への依存度 |
| 7 | 役員報酬の内訳 | 正常化EBITDAの計算材料。オーナー一族への支払い総額 |
| 8 | 保険積立の解約返戻金 | 簿外の資産価値。節税スキームの規模感 |
2次依頼(1次の結果次第で追加): 賃貸借契約書、リース一覧、従業員名簿と給与台帳、許認可の一覧、売掛金の年齢表。最初から全部を要求すると売り手が疲弊して交渉自体が壊れるので、段階を分ける。
確認手順 — 裏取りが先、計算は後
資料が揃ったら、指標計算の前に数字の信頼性を確認する。順序を逆にすると、信用できない数字の上に精緻な計算を積むことになる。
ステップ1: 決算書と申告書の突合
決算書の当期純利益・売上高が法人税申告書(別表四・別表一)と一致するか照合する。ここがずれる場合、どちらかの書類が「見せる相手向け」に作られている。スモール案件で最初に確認すべき論点で、ずれが出たら理由の説明を求める。
ステップ2: 残高の実在確認
- 預金残高 → 通帳コピーか残高証明書と照合
- 借入金 → 返済予定表と金融機関の残高証明で全量確認。内訳明細にない借入(役員借入・親族借入)の有無を質問
- 売掛金 → 主要取引先への請求書・入金履歴と付き合わせ。年齢表があれば長期滞留を特定
ステップ3: 損益の実在確認
月次売上の推移と決算書の年間売上を突合し、期末月に不自然な山がないかを見る。仕入・外注費の相手先が内訳明細で特定できるか、オーナーの親族企業への支払いが混ざっていないかも確認する。
ステップ4: 6指標の計算とベンチマーク比較
裏取りを通過した数字で、正常化EBITDA・純有利子負債・CCC・流動比率・自己資本比率・営業利益率を計算し、業種ベンチマークと比較する。指標の中身と判定の考え方はピラー記事の「財務DDで見るべき6つの指標」で詳しく書いたので、ここでは省略する。
資料の「出方」を記録する
売り手として3回DDを受けて分かったことだが、資料依頼への応答そのものが情報になる。
- 即日〜数日で出てくる資料 → 普段から管理されている領域。数字の信頼性も相対的に高い
- 何度も催促して遅れて出てくる資料 → 管理が甘い領域。出てきた数字も精査を厚めに
- 「ない」と言われた資料 → なぜ無いのかの説明を求める。月次売上が「ない」会社は、経営者が数字を見ずに経営している
依頼日と受領日をチェックリストに記録しておくと、最終判断の材料になる。
質問リストの作り方
突合で見つかった不一致は、感情を挟まず淡々と質問リストにする。書き方の型は「資料Aでは X だが、資料Bでは Y になっている。差異の理由を教えてほしい」。
売り手は聞かれたことに答えるのが基本姿勢で、聞かれないことは基本的に言わない。悪意ではなく、何が買い手にとって重要かを売り手側では判断できないからだ。質問リストの網羅性は買い手の責任と考える。
チェックリスト(保存用)
- 8点セットを依頼した(依頼日を記録)
- 各資料の受領日を記録した
- 決算書と申告書の突合を行った
- 預金・借入・売掛金の残高を裏取りした
- 月次売上と年間売上を突合した
- 役員報酬・私的経費を洗い出して正常化EBITDAを計算した
- 6指標を業種ベンチマークと比較した
- 不一致を質問リストにして売り手に確認した
- 残ったリスクを価格・契約条件への変換候補として整理した
まとめ
簡易DDの骨格は「8点の資料依頼 → 突合による裏取り → 6指標の計算とベンチマーク比較 → 質問リスト」だ。ここまでは会計士に頼まなくても買い手自身でできる。
指標計算とベンチマーク比較の部分は、筆者が開発した DD Tool で自動化できる。決算書の数字を入力すると6指標の計算・5段階RAG判定・業種ベンチマーク比較まで行い、財務データは外部に送信されない。手順の全体像と価格交渉への変換は完全ガイドにまとめている。
よくある質問
- Q. スモールM&AのDDで最初に依頼する資料は何ですか?
- 最低8点です。決算書3期分(勘定科目内訳明細書つき)、法人税申告書3期分、直近の試算表、借入金返済予定表、売上の月次推移、主要取引先リスト、役員報酬の内訳、保険積立の解約返戻金。賃貸借契約書や従業員名簿などは1次確認の結果を見てから2次依頼に回します。
- Q. 決算書と法人税申告書はなぜ突合するのですか?
- 銀行提出用と税務署提出用で数字が異なる「二重帳簿」を検出するためです。決算書の当期純利益・売上高が申告書の別表と一致するかを最初に確認し、ずれていれば理由の説明を売り手に求めます。
- Q. 資料が遅れて出てくる場合はどう判断すべきですか?
- 資料の出方自体が情報です。すぐ出る資料は普段から管理されている領域、催促しても遅れる資料は管理が甘い領域を示します。依頼日と受領日を記録し、遅れた資料の数字は精査を厚めにします。
- Q. 月次売上のデータがない会社は危険ですか?
- 警戒すべきサインです。月次の数字が「ない」ということは、経営者が月次の数字を見ずに経営していることを意味します。なぜ無いのかの説明を求め、試算表や請求書ベースで月次推移を再構成できるか確認してください。
- Q. チェックリストの確認はどこまで自力でできますか?
- 資料依頼・突合・裏取り・6指標の計算・ベンチマーク比較・質問リスト作成まで、すべて買い手自身でできます。赤信号が集中した論点や税務・簿外債務の疑いが出た段階で、その論点に絞って会計士に依頼するのが費用対効果のよい分担です。